停留精巣


鼠径ヘルニアに合格点がついて、研修医の後期になるとこの手術を担当します。しかし、停留精巣に合併したヘルニア嚢の処理は困難を極めます。ヨーロッパではメジャー手術に数えられるそうです。
停留精巣の手術を好きではないという小児外科医はけっこう多いです。固定する精巣が小さくてふにゃふにゃだったりすると、あるいは引きおろした精巣の緊張が強かったりすると、手術の効果というか出来栄えが大変不安になります。もちろん、最終的に造精能を評価して、あるいは子孫を残して初めて病気が治ったと言える訳ですが、小児外科の外来ではそこまでのフォローは行われていません。
同時に行うヘルニア嚢の処理は、これはもう小児外科医のファインな手ではないと、絶対にできません。向こう側が透けて見えるくらい、いや、薄くて見えないようなヘルニア嚢を剥離・結紮するのです。一周をわたる時、切開した断端をペアンで把持しますが、この時にペアンを持ってはいけません。手のひらの上に乗せて置いておくんですね。持つと何本かのペアンの先端が四方八方へ向きますからヘルニア嚢が裂けて収拾がつかなくなることがあります。ヘルニア嚢が内鼠径輪に向かって裂けて行くと背中に冷たい汗が流れ落ちます。これを防ぐために、前立ちの手を利用してペアンを持つのではなく、置くんですね。
もうひとつコツを書いておくと、ヘルニア嚢の剥離にはアドソンの無鉤鑷子を使い、薄皮一枚のヘルニア嚢と精索の間にアドソンの先端をすっと入れるんです。そして、鑷子のばねの力でヘルニア嚢と精索の間を剥がして行くと案外スムーズです。解剖鑷子はこの手術の剥離に向いていないと思います。
確かにメジャー手術とされるくらいに難易度の高い手術でしょう。