胆道閉鎖症
この手術に関しては僕は人に教えることができません。難しい手術、よく分からない手術です。肝門部をどの深さ、どの範囲までを切離すべきかいまだに学会で議論されています。日本のトップの小児外科医の先生たちはそれぞれが自分なりの指標をもっているようですが、ただ、不思議なことに外科医によって肝門部を掘る深さが微妙に違っていても手術成績には大きな違いが感じられません。
では、深さはどうでも良いのかとなるとそうでは無いようです。東北大学の大井先生は「過ぎたるは及ばざるが如し」と述べられており、深く掘ってむしろ治療成績が悪くなった時期があったことを認めておられます。
千葉大学では大沼教授がこの手術を一手に行っており、お一人で少なくとも50例以上は経験なさっているのではないでしょうか?索状胆管と門脈の間をメッツェンバウムで開排して一気に剥離してしまう技術はとても真似できません。
術式も葛西原法から駿河II法、そして葛西原法に戻りました。もちろん、生体肝移植を考慮して腹腔内の癒着を最小限にするためです。しかし、葛西原法にしてみると駿河II法をやっていた時のあの術後管理の大変さは一体何だったのだろうかというくらい、両者の間には治療成績の違いがありません。駿河II法の利点は上行性胆管炎の予防ではなく、胆汁排出のリアルタイムのモニターリングだということは分かっていましたが、胆汁が出ているか否かは葛西原法でも十分に分かります。シンプルがベストです。
僕自身は微小胆管の症例を経験したことがあります。総肝管の外径は6mm、内径は2mm程度でした。肝内は雲状に造影されました。これを空腸脚と端々吻合したのです。90°ずつ4針の縫合でした。余った空腸の断端を肝門部に縫い付けました。術後経過は良好ですぐに脱黄しました。
肝門部切離の深さと範囲は、これからも議論されるのでしょう。また、そうであることが大事です。生体肝移植は非常に重要な医療手段ではありますが、その一方で生体肝移植を避ける努力もこれからも続けていかなくてはなりません。