鼠径ヘルニア
小児外科医は誰でもまずはこの手術からです。
高橋名誉教授は、鼠径ヘルニアの手術は簡単だといつも言っていました。難しいのは虫垂炎なのにみんな逆に考えていると。つまり、鼠径ヘルニアは「解剖」の手術なので解剖通りに手術すれば必ずゴールするのに対して、虫垂炎は「炎症」の手術だから難しいと。この各論を総論的に解釈すればその通りなのでしょう。でもやっぱり、小児鼠径ヘルニアの手術は難しいと言わざるをえません。
研修医にとってまず何と言っても解剖が分かりにくいし、あの小さい創でどれがどのレイヤーなのか自分で判断できるようになるには最低100例くらいの経験は必要なのではないでしょうか?で、慣れて来たころに冷や汗をかくような経験を大抵の人が一度や二度はしているはずです。
僕は鼠径ヘルニアの再発も2例経験しています。もちろん、高位結紮の糸がずっこけたとか、ちゃんと一周わたっていなかったとかの馬鹿な話しではありません。内精筋膜を切開して精巣動静脈・精管をヘルニア嚢からフリーにしますよね?で、その直上で高位結紮するのですが、そのすぐ下から、つまり内精筋膜がオープンになっている腹膜の弱い部分から再度ヘルニアが出てくるんですね。このあたりの解剖と再発のメカニズムは横森先生の論文に詳しく書かれています。
鼠径ヘルニアは小児外科医にとって、とても大切な疾患です。一例一例、大事にしましょう。