先天性胆道拡張症

小児外科疾患の中では、非常にやりがいのある難しい手術です。定型的手術の中では最も時間のかかる手術と言って良いでしょう。
定型的とは言っても、実は1例1例に合流形態のバリエーションがあり、これらの情報は術前のERCP無くしては得ることができません。術中造影だけで大丈夫との意見もありますが、それは手術の遂行に支障が無いという観点からの意見であり、僕自身は術前ERCPが無いと良い手術ができる自信がありません。また、のう胞の大きさや炎症による周囲との癒着の程度も手術の難易度に大きく影響します。
手術書を読むとのう胞を一周わたる時に、無血管の層にうまく入ると出血無くきれいに剥けるとありますが、これが容易ではありません。たしかにそういう層があるようなのですが、途中でこの層が不明瞭になってくることも珍しくありません。
僕自身はと言えば、大沼教授とのコンビで相当数のCBDを手術しましたが、割と早期からのう胞の外の層では剥離せず、全例、粘膜抜去の方針としました。術者が良い層を見つけて粘膜を剥いて行き、前立ちが露出した毛細血管を電気メスで焼灼して行くのですが、術者間の息が合うとこの作業がすいすいと進んで行きます。
なお、粘膜抜去を行って最後の詰めでPig Tailが見つからず全摘になったことは1度や2度ではありません。ところが、これって術後に全然問題が無いんですね。それらしいところはすべて結紮しているからでしょうか。
卒後8年目の時にCBDの手術で膵管を切断してしまったことがあります。のう胞が左下腹部まで及ぶ巨大なもので胆管炎を併発しておりPTCDを行ったらEitelが1リットル流出した症例です。炎症が治まってから手術を行ったのですが、開腹すると目の前がくらくらするような強固な癒着を形成していました。手術は長時間に及び、出血の中で次から次へと血管と思える構造を結紮・切離していたのですが、ある瞬間、僕はあっと声をあげました。切断した管が膵管に見えたのです。造影するとやはり膵管でした。内径は約1mmから1.5mmくらいでしょうか。これをきちんと縫わないとこの子は死ぬと自分に言い聞かせ、2.5倍のルーペをかけ、6Fr.の膵管チューブの先端拡張部を切り落として側孔を開けこれをステントにし、前後壁を外内内外に8-0ナイロンで18針縫いました。膵管チューブの手前は十二指腸経由で胃壁から出し、これをWitzelにしました。術後2週間は絶食、その後2週間は水分のみ許可しました。1歳の子でしたが、絶食時の1日の膵液量は500mlくらい、水分をとってからは700mlくらいでした。結局、4週後、造影をせずにそっと膵管チューブを抜きました。造影しなかったのは、吻合部に圧が加わりリークするのを恐れたからです。その後、この患者さんはまったくトラブル無く順調に経過しています。
CBDの術者になるにはそれ相当の技量が必要です。