縦隔腫瘍
後縦隔腫瘍の手術が難しい理由は簡単です。胸の中だからです。つまり、肋骨に囲まれているのですね。従って、腹部の手術のように腹壁を引っ張って術野を広くするなどのことができません。局所の展開のしようがないのです。ですから良性腫瘍だろうと悪性腫瘍だろうとその摘出は困難です。小児外科学会の指導医取得の条件でメジャー手術に規定されている所以です。一般に、腫瘍摘出のコツは腫瘍を我が手中に収めコントロール下におくことです。つまり、腫瘍の背面に手が入った瞬間に勝ちなんですね。ところが縦隔腫瘍では背面に手が入るどころか表面に触れるのがやっとということもあります。こういったケースでは長ペアンを使い、肋骨を支点に「梃子」の力で腫瘍を剥離することがあります。出血すればすかさず、剥離に用いている長ペアンで出血点をおさえ、電気メスで焼くか深部結紮をします。ドレナージ・ベインは電気メスでは止血できませんから深部結紮の技術が必須になります。若い先生たちが普段からやっている糸結びの練習はこの時のためにあると言えるのかもしれません。
マススクリーニングで発見された神経芽腫を胸腔鏡下に摘出しようとしたことがありますが、長ペアンと異なり胸腔鏡手術鉗子は柔らかく、しなってしまい、思うように腫瘍の剥離ができないことがありました。縦隔腫瘍を胸腔鏡で手術するというのは一見、魅力的ですが、出血がコントロールできない時など、開胸に切り替えた時に操作に時間がかかってしまうなどの問題があるように思えます。多発(小)肺転移などを摘出するのにはとても向いていると思いますが。このあたりは、僕は専門家ではないので若い皆さんがよく考えてみてください。