肥厚性幽門狭窄症
この手術の特徴を2つ挙げると、ひとつは若手小児外科医が非常に感激する手術であるということ、もうひとつは小児外科手術で最も簡単な手術ということです。
僕自身も初めて肥厚性幽門狭窄症の手術をした時の感激を今でも忘れられません。千葉大では鼠径ヘルニアの手術がある程度できるようになると肥厚性幽門狭窄症の術者になれるのですが、どこの施設でもおおむね同じなのではないでしょうか?感激するというのは、まずなんと言っても初めての開腹という体験にあります。皮膚を切って皮下を切開して筋膜を切って筋層を切開して、、、この緊張感はなんとも言えないですよね。そして、粘膜外筋層切開。Benson鉗子を手にします。千葉大では「高橋鉗子」です。粘膜を一枚残して筋層だけを切る、、こんなことが本当にできるのかと術前は思いますが、出来るんですね、これが。鼠径ヘルニアでFineな手技は鍛え上げられていますから。そして最後に術後の赤ちゃんのミルクの飲みっぷりです。翌日から全然吐かずに飲めるじゃないですか。これには本当に感激します。ママと一緒に術者が喜んでしまいます。
簡単な手術と言いましたが、これは僕の本音です。肥厚性幽門狭窄症をきちんと手術できないようでは小児外科の雑巾がけからやり直しです。しかし、それとは別に合併症は皆無ではありません。そうです、全層切開になってしまった時です。問題は対処法を知っているか否かでしょう。高橋名誉教授の教えは、粘膜だけを縫合閉鎖してそこに大網を寄せておく、術後は2−3日絶食にするというものです。松戸市立病院前小児外科部長の川村先生の教えは、全層を縫合してその隣にもう一本、粘膜外筋層切開をおくというものです。幸い僕自身は粘膜穿孔の経験はありませんが、大事なことは粘膜穿孔を起した時にそれにちゃんと気づくということでしょう。蛇足と思いますが、粘膜外筋層切開のコツはBenson鉗子を握った手で鉗子を強く閉じながら、同時に開排するという感覚です。ちょっと、禅問答でしょうか。
かつて僕が研修医だった昭和の終わりに、千葉県内のある大きな病院で千葉大出身では無い一般外科医が5例、肥厚性幽門狭窄症の手術をして5例すべてが粘膜穿孔を起したとのこと。今の時代からは考えられないですね。小児外科疾患は小児外科医が手術しなければいけません。