腹壁破裂・臍帯ヘルニア
中條法は画期的な手術法でした。
もちろん、人工布を用いた多段階閉鎖法として、Schuster法、Allen-Wrenn法が以前よりありました。前者は水平方向に圧をかけて腹腔容積を拡大させ、後者は垂直方向に圧をかけて腹腔容積を拡大させると考えてよいでしょう。中條法は厳密に言えば、臍帯ヘルニアに対するSchuster変法であり、腹壁破裂にも応用されているというのが正しい解釈です。
千葉大学小児外科教室の揺籃期には、何例か人工布を用いた術式が行われたようですが、ことごとくが感染によりうまく行かなかったと聞いています。僕が入局した昭和の終わりは全例が一期的閉鎖か皮弁によるLadd法(もしくはGross法)でした。一期的閉鎖術の術後管理は極めて困難で、今で言うところのAbdominal Compartment Syndrome(ACS)に陥ることになります。連日の徹夜で最重症管理を強いられることになるのです。Ladd法も手術法としてはまったく評価できません。腹壁瘢痕ヘルニアを作るだけですから、腹腔容積は拡大しません。1歳のLadd法術後の子どもに根治術を施行した際、ACSを引き起こし、救命できなかった苦い経験があります。
千葉大小児外科ではこれを機会に1992年からは中條法がメインになりました。術後管理の容易さは革命的であったと言えます。少なくともACSはこれにより解決されました。問題はすべての症例を中條法で行うか否かでしょう。僕の意見はイエスですが、異なった意見を持った教室員もいます。つまり、少々の無理なら一期的に腹壁を閉鎖すべきとの意見です。胃内圧や膀胱内圧をモニターしてACSを評価する試みは以前からありますが、絶対的に信頼できるマーカーではないと思います。感染防止を含め周術期管理が進歩した現在において、無理して中條法を忌避する論理は僕には理解できません。