腸重積

何が重要な疾患かというとそれは定義にもよるでしょう。しかし、僕は腸重積が小児外科の中で一番重要な疾患だと医学部の学生に教えてきました。それは、疾患の「頻度」×「緊急度」の積が最も高いのがこの病気ではないかと考えるからです。
手術自体はHutchinsonで戻すだけですから、研修後期の若手小児外科医が術者を務めることが多いようです。しかし、重症の腸重積って本当に重症になるんです。
僕が1995年に経験した症例は生後3ヶ月でした。夜中に小児科の先生に呼ばれて救急外来へ行きました。発熱、血便の赤ちゃんです。小児科の先生は感染性腸炎ではない、外科的な病気ではないかと言うのです。僕は赤ちゃんを一目見て言いました。「あ、診断はどうでもいいです。すぐ、挿管してICUに入れましょう。」ショック状態だったのです。全身管理が始まってから超音波を行いました。回盲部から上腹部へ。Target Signはありません。しかし、こんなことで腸重積は否定できません。プローブを左下腹部まで移動するとそこにははっきりとTarget Signが。全身状態の安定、利尿を待って開腹しました。
腸重積はS状結腸の手前まで進んでいました。これを整復して回盲部切除です。しかし、切除範囲をめぐって僕と前立ちの先生の考えが合いませんでした。短腸症候群になる訳ではないのであと30センチ長く切除したかった僕ですが、それは許されずその手前の部位で腸吻合しました。しかし、その感触たるや、、まるで豆腐と豆腐を縫っているようでした。
術後も全身状態が極めて悪くIntensive Careが続きました。縫合不全を疑うのですが、お腹の所見は悪くないのですね。全身状態は悪いままなのです。もう一度、お腹を開けるか否かで小児外科医と麻酔医(ICU医)で繰り返し激論になりましたが、最後は外科医のメンタリティーで明確な根拠はありませんでしたが再開腹を決断しました。開腹すると縫合部は穿孔しており周囲臓器にふたされていました。腹膜炎にはなっていなかったのです。手術後、赤ちゃんは急速に回復しました。
答えは何だったのでしょうか?僕の思ったとおり30センチ長く切除することだったのでしょうか?多分、そうではなくて正解は腸ろう造設なのでしょう。え?腸重積で腸ろう?と思われる方がいるかもしれませんが、外科医にとって腸ろうは必殺技です。生後3ヶ月のショックの患者なのですから、腸ろうを考慮する頭の柔らかさは絶対に必要だと思います。