肝芽腫
肝芽腫の手術は、がんの摘出ではなくて、肝臓を切る手術です。したがって、肝芽腫という病気がどんな病気なのか、まったく知識が無くても外科医が手術できることになります。
実際、小児外科医にとって肝切除というのは鬼門です。症例数がきわめて少ないからです。成人の肝臓外科医の方がよっぽど手術に慣れているでしょう。
肝切除が難しければ工夫をすれば良いだけのことです。成人の肝がんと違って抗がん剤が極めて有効ですから、術前化学療法で腫瘍を小さくすれば良いだけのことです。あとは解剖に従えば必ずゴールできるはずです。肝門部の処理などは、胆道閉鎖で小児外科医はさんざんやっていますから、実はけっこう巧みなはずです。
以前にある学会で、肝内に多発した肝芽腫を化学療法で縮小させてから肝切除を行った発表がありました。すると、ある外科教授が発言を求め、こんな腫瘍は1期的に切除できると豪語します。さらにあろうことか、会場の参加者に向かって、この症例に術前抗がん剤を使う人は手を上げて下さい、とか言い出しました。
びっくり仰天です。手術のコンテストをやっているんではありません。こういった症例を1期的に切除しようとする小児外科医は、世界にその先生だけです。悪い意味で。その時、東大の故・土田教授が僕を振り返って、「言った方が良い、言った方がいい」と小声でささやきましたが、僕は呆然として何も発言できませんでした。
小児外科医にとって肝切除は鬼門と言いましたが、実は日本では完全切除率が大変高く、三区域以下の症例はほとんど100%近くが治癒しています。日本の治療レベルは欧米と比べてまったく遜色ありません。これは他の小児がんとの違いです。