ウイルムス腫瘍

ウイルムス腫瘍にインオペ(摘出不能)無し、と言いますが、本当にそうだと思います。これまでに見て来たウイルムス腫瘍の手術で、摘出が難しいと思えたケースはほとんどありません。最も難しいと思えたのは、僕自身が執刀した巨大腫瘍の症例です。

まず開腹して後腹膜に入ろうとするのですが、結腸が腫瘍から剥がれない。後腹膜腔に入れないんですね。下した決断は、結腸合併切除です。結腸を切断してようやく腫瘍の外側に「とっかかり」を作ることができました。

今度は正中側の剥離ですが、腫瘍が巨大で大動脈も下大静脈も見えません。ようやく腎動脈が見えてこれを縛って切ろうとした時に、それが健常側の腎動脈と分かりました。内側のへりを起こしてようやく大動脈を確認、先に腎動脈を縛って、次に腎静脈を縛って腫瘍を摘出しました。

早期静脈処理、なんて言いますが、静脈を先に縛ると腫瘍の中に血液が流入してたまり、腫瘍が膨れ上がって腎動脈が見えにくくなることがあります。先に静脈を処理しないと腫瘍細胞が飛んで行くなんて、悪い意味での外科医の発想だと思います。

この症例では腫瘍摘出後に腸吻合がありましたから、全部で8時間くらいかかりました。この症例を克服して、ウイルムス腫瘍にインオペ無しと、本当に心底思いました。